『典座ーTENZOー』トーク・レポート|第36回 Cプログラム
登壇者
富田克也[映画監督]
相澤虎之助[映画監督、脚本家]
聞き手:大津康彦[水戸映画祭 NPO法人シネマパンチ]
※トークの模様から一部抜粋してお届けします。(以下、敬称略)
仏教の宗派である曹洞宗の青年会からの依頼で製作され、カンヌ国際映画祭「批評家週刊」に特別招待、ロッテルダム国際映画祭、ヘルシンキドキュメンタリー映画祭など各国で上映された本作。
大津 「チョッケツ」という標語もあるとおり、自分たちでテーマを見つけていって企画製作している映像集団 空族が、依頼されての映画製作は珍しいと思いますが、そもそも本作が製作された経緯はどのようなものだったのでしょうか。
富田 曹洞宗青年会の倉島隆行さん、(富田監督の)いとこの河口智賢から話がありました。どう撮影したものかと思いましたが、曹洞宗の高僧 青山俊董老師と出会い、すっかり魅了され、「この世もまだ捨てたもんじゃない」と思えたことは大きかったです。まず青山老師と智賢との禅問答を撮影させてもらい、山梨パート、福島パートを描いていきました。
相澤 世界仏教大会というのがありまして、そこで日本の仏教を紹介する映像を、というのがそもそも映画を製作する目的ということでした。青年会の若いお坊さんたちと話をすると、東日本大震災後、これまでよりも檀家と対話する機会が増え、必要とされていると感じていると。持ち回りで対応する電話相談のこと、寺も檀家衆も家族も津波に流されてしまったお坊さん。震災後の実話を聞き取り、それをもとにストーリーを組んでいきました。
大津 カンヌをはじめ世界各国の映画祭で上映されていますが、メディアや観客の反応はいかがだったのでしょうか?
富田 日本人にとって当たり前になっていることも、海外の方の視点で再発見してもらうことは多々ありますね。宗教への下地があるのか、仏教にも興味を持って深い理解を示してくれているように思いました。製作当初からカンヌ出品を切望していた倉島さんは、永平寺のあとフランスの禅寺で修行したこともあってカンヌ映画祭にも偶然立ち寄って、その時から決意していたそうです。倉島さんの尽力は大きいです。さまざまな縁起が繋がっていると感じます。曹洞宗青年会もカンヌ入りしたのですが、袈裟姿のお坊さんが十数人もずらりと並ぶと壮観で注目を集めていました。
富田 水戸に来ているので必ず伝えなくてはならないことがありまして。『典座』で映る福島のシーン、ここには水戸出身の柳町光男監督※と一緒に現地で撮影していた、震災直後の福島・南相馬の映像が使われています。柳町監督をとても尊敬していて、親しくさせてもらっています。同じく水戸出身の深作欣二監督も輩出した水戸は凄い土地です!
※代表作に鹿島が舞台の『さらば愛しき大地』、『火まつり』、『GOD SPEED YOU!BLACK EMPEROR』、『十九歳の地図』などがある。
有難いお言葉!柳町監督+空族で特集上映したいと妄想を膨らませるスタッフ一同でした。ほかにもここには書ききれない製作秘話をたくさんお話いただいて、会場も大いに沸いていました。
2011年公開の映画『サウダージ』は山梨県甲府を舞台に「土方・移民・HIPHOP」をテーマに、35mmフィルムで撮影されました。公開から10年経ち、この秋デジタルリマスター版されて上映します。空族の作品は配信・レンタルされませんので映画館・上映会場でどうぞ! さらに『サウダージ』の続編的新作が始動!! ご期待下さい。
撮影:山崎宏之