『白鍵と黒鍵の間に』トーク・レポート 39th F Program

映画 白鍵と黒鍵の間に 冨永昌敬監督 杉山ひこひこさん 松丸契さん 魚返明未さん

登壇者

杉山ひこひこ[俳優] 冨永昌敬[映画監督]

司会:大津康彦(水戸映画祭スタッフ)

♪スペシャル・ライブ

松丸契(サックス) 魚返明未(ピアノ)

原作は『白鍵と黒鍵の間に』(小学館)。ジャズピアニスト南博さんが、キャバレーや高級クラブでピアニスト修行をしていた青年期を描いたエッセイです。映画では、昭和末期の銀座を舞台に、3年にわたる時間を一夜の物語に仕立て、主演の池松壮亮さんが「南」と「博」の二役を演じるという、まさに時間芸術ともいえる迷宮的作品。冨永監督らしいユーモアや昭和の猥雑さがそこかしこにちりばめられつつ、大きなジャズ愛も感じられます。

冨永監督は、菊池成孔さんはじめジャズミュージシャンのライブ撮影や、『庭にお願い』(2011年の「第15回水戸短編映像祭」では倉地久美夫さんのライブ付き上映でした)や『アトムの足音が聴こえる』など音楽ドキュメンタリーも撮られています。本作は、構想に時間をかけ、満を持して撮影された作品といっても過言ではないでしょう。

第6回水戸短編映像祭でのコンペティション部門グランプリ受賞以来、水戸発映画『ローリング』など、冨永監督とは多々ご縁をいただいている水戸映画祭では、店長の「門松」役の杉山ひこひこさんとのゲストトークに加えて、監督自ら惚れ込み出演オファーをし、映画初出演となった「K助」役の松丸契さん、劇伴を手がけた魚返明未さんによるスペシャル・ライブを企画。作品をたっぷりと五感で堪能できる贅沢なプログラムとして映画祭のフィナーレを飾りました。

※トークの模様から抜粋してお届けします。(以下、敬称略)

映画 白鍵と黒鍵の間に 冨永昌敬監督 杉山ひこひこさん

大津:本日はお越しいただきありがとうございます。まずはこの作品の成り立ち、ジャズとの関わりなどをお聞きします。

冨永:杉山ひこひこくんとは、大学時代からのいわば盟友ですけれども、2002年、第6回水戸短編映像祭のコンペティションで『VICUNAS(ビクーニャ)』がグランプリをいただき、その作品に出演してもらっていたので、当時も一緒に水戸に来ましたよね。覚えてます?

杉山:もちろん! 覚えてますよ。

冨永:その後、『VICUNAS(ビクーニャ)』を東京(池袋「シネマ・ロサ」)で上映してもらうことになって。同時に受賞したビリオン情事くん(『HIGH SCHOOL ROCK』水戸市長賞)が連絡してくれてジャズミュージシャンの菊池成孔さんが観に来てくれたんです。それがきっかけで菊池さんのライブの撮影をさせてもらうようになって。カメラマンの月永雄太くんと3人で、当時「イーストワークス」レーベルの計らいでいろんなジャズミュージシャンのライブ撮影に行っていました。そこで南博さんとも出会いました。南さんとお会いした時にすぐ、本を映画化するにはどうしたらいいですか? と訊かれまして。それはぜひ僕に預からせてください、とお話したのが始まりです。

杉山:冨永監督はもともとジャズにとても詳しいんですよ。

冨永:詳しいというかまぁ、僕はシンプルにジャズファンなんです。映像の仕事をしながら、ずっとジャズ喫茶でバイトもしていました。

杉山:南さんの著書は僕も読んでいましたし、映画化の話も聞いていてずっと楽しみにしていました。それでいざ監督から脚本をいただいたら、3年にわたる話が一夜の物語になっていた。もう、これには度肝をぬかれましたね。

大津:複数の時間軸の話を一夜に収めるというのは、構想の初期段階からあったのでしょうか?

冨永:途中からです。原作は、南さんが、若き日(80年代後半)にキャバレーや銀座のクラブでハウスピアニストをして、しかも2軒かけもちして……そこから生まれた本なのでもう本当に面白い人物やエピソードの連続なんですよね。映画化するにあたっては、短編作品を作るときのように思い切った構成にしてみようと考えました。すると、たんなる年代記でなく何を誇張して何を省略するのか、強引にでも嘘をつきとおす、くらいのことも必要になってくるわけで。ジャズライブの撮影や編集をさせてもらっていたことで、セッションする、インプロヴィゼーション(即興)でひろげていく感覚というのは、非常に影響を受けていると思いますね。

杉山:僕は、ずっと冨永監督と一緒に仕事してきて、この『白鍵と黒鍵の間に』は本当にとても好きな作品になったんです。こんなに冨永監督の素直な表現が出ていると感じる映画ははじめてで。なんというか「恥ずかしさ」も映画に出してきているというか。

冨永:それはずっと一緒にやってきているからかな。杉山さん演じる店長の「門松」や、高橋和也さんや川瀬陽太さん演じるバンマスの年齢に自分も近くなって、生活と仕事で板挟みだったりするような中年の気持ちもわかるようになってきて。主演の池松君は一人二役以上でピアノも弾いて、もちろん凄いのですけれども、やっぱりそういう(脇を固めている)俳優たちの存在もとても大事です。

映画 白鍵と黒鍵の間に 冨永昌敬監督 杉山ひこひこさん

杉山:今日これからライブをする松丸契くんの存在もすごく良くて。

冨永:松丸契くんは「K助」として映画のそこかしこに出てきます。モデルになった「K君」は、一緒に仕事した期間は短いながら南さんがずっと心に残っている大事な友人だけれど、いまはどこで何をしているのかわからないそうです。「K助」は、「南」と「博」どちらとも絡みのある、時空のねじれの隙間にいるような謎めいた存在ですね。
松丸くんと魚返くんは、今の日本のジャズ界でトップクラスのミュージシャンだと思っています!ライブも是非楽しんでください。

~Q&Aから~

質問者:素晴らしい音楽映画でした。主演の池松さんのピアノはどのくらい吹き替えしているのでしょうか?

冨永:ありがとうございます。劇伴とピアノ演奏は、このあとライブで登場する魚返明未くんで、その演奏を見ながら、池松君は自分で弾いています。手元も、魚返くんが何カットかありますが、ほぼ池松くんです。吹き替えはほとんどしていないんですよ。特に「ゴッドファーザー 愛のテーマ」は、池松くんの弾いた音もそのまま使っています。予定していなかったですけれど、半年程の練習でまさかそこまで仕上げてもらえるとは。

質問者:BRAVOですね!

トーク後には、「K助」役で映画初出演、そして水戸初登場のサックス奏者 松丸契さん、本作の劇伴を担当したピアニスト・作曲家の魚返明未さんによるスペシャル・ライブがありました。新進気鋭のジャズメンによる、一音一音、耳を、いや全身を研ぎ澄ませて聴きたくなるような音空間。最高の締めくくりとなりました。

映画 白鍵と黒鍵の間に 松丸契さん 魚返明未さん

♪ライブ セットリスト

メインテーマ(OST)
みずうみの独奏(同)
一晩三年(同)
春時雨(松丸契『The Moon, Its Recollections Abstracted』より)
静かな影(魚返明未『照らす』より)
Coming Now(OST)
※このほか即興的箇所あり

映画 白鍵と黒鍵の間に スペシャルライブ 松丸契さん 魚返明未さん
映画 白鍵と黒鍵の間に スペシャルライブ 松丸契さん 魚返明未さん

映画「白鍵と黒鍵の間に」Blu-ray/DVD発売情報、レンタルDVD

あらためて、第39回水戸映画祭にご来場くださいましたお客様、ゲストの皆様、関係各所の皆様、誠にありがとうございました。2025年にはなんと第40回!を迎える水戸映画祭で、またお会いできますことをスタッフ一同楽しみにしております。

当日プログラム詳細

構成・文:藤美奈子 写真:神山靖弘


2025年03月25日 | Posted in Talk Report | | Comments Closed