『赤い糸 輪廻のひみつ』トーク・レポート 39th E Program

登壇者
伊藤さとり[映画パーソナリティ] 葉山友美[台湾映画社] 小島あつ子[台湾映画同好会]
なにやら面白い台湾映画があるらしい、しかも個人配給されている作品で、劇場公開以外の鑑賞方法が今のところないらしい、という本作を知ったのは2023年の年末でした。
実際に劇場に足を運んだ2024年1月に、偶然、配給をしている葉山さんとお会いしてお話をする中で、この作品の茨城初上映をぜひ水戸映画祭でできたら光栄だなと思っていました。また、個人や小さな配給会社で配給される映画が目立ってきた昨今、実際に配給をされている方のお話をお聞きしたいと思っていたこともあり、配給の葉山友美さん、小島あつ子さんへ登壇を依頼しました。
司会進行には、2023年のTAIWAN MOVIE WEEKにて、ギデンズ・コー監督とのトークの聞き手を務められ、自身も本作が大好き!と推していた、映画パーソナリティの伊藤さとりさんにお願いできたら、とても活気のあるトークになるのではないか、という思いで依頼をさせていただきました。
当日、会場に3人でお越しいただいた時点で、すでにとても熱気のあるトークが繰り広げられており、そのテンションのまま上映後のトークに突入しました!
※トークの模様から抜粋してお届けします。

最初に、どういう経緯でこの作品を見つけ出し、個人配給するに至ったのかについて葉山さんから経緯をお話いただきました。
元々、台湾映画が好きだった葉山さんと小島さん。台湾映画は日本で公開される本数が少なく、台湾での話題だけは聞くけど日本には来ない……と嘆いていたそうです。ギデンズ監督の『あの頃、君を追いかけた』(2011)が日本でもヒットしたにも関わらず、彼の新作が日本に入ってくる様子がない、と、ダメ元で権利元に問い合わせたところ、全世界の配信件・ソフト化権は、すべて超大手の会社に売却済みである、ということが判明(配信権やソフト化権がないと配給会社としてはビジネスとして難しいためなかなか手があがらない)。
それなら、と配信されるのを待っていても日本にまったく入ってこない状態の中、上映権は買えるということが判明。そこで、日本の映画会社が買わないなら、自力で買って上映させよう、と葉山さんが小島さんをお誘いしたそう。

お互い個人でも配給はしているものの、大作ともなると、一人で配給しようとすると、すべての決定(ポスター、チラシ、キャッチコピーなど)を自分でしなければいけないこと、誰にも相談できない、良いか悪いかの判断も難しいことが大変、と小島さん。
字幕は、翻訳者の方にお願いしたものの、本作のネタの多さ、設定の複雑さから、なるべく分かりやすい字幕にしてもらうよう注文が多くなったようです。
中国語は言葉の中に含まれる意味が多く、すべて伝えるには日本語の字幕には乗せ切れないため、一度見て、ストーリーをきちんと把握できることを目指して調整をしたとのこと。
また、パンフレットも作品を見た後に理解が深まるよう工夫されたそうです。実際に台湾で公開された際も、少し分かりにくいという声があったそうで、ギデンズ監督がブログに解説を書いており、その情報も載せたほうがより作品を楽しんでもらえるかと、監督に翻訳・掲載を直談判したところ大変喜ばれたようです。

漫画やアニメが大好きな伊藤さんは、本作の、ジャパンカルチャーのオマージュの多さに字幕の大変さも理解できる、少年ジャンプの作品を実写化したかのようなオリジナル作品ということが素晴らしい、と、本作に散りばめられたオマージュのベース(漫画やアニメ、ホラーなど本当に幅広い!)、音楽の解説をしてくださいました(みなさんはいくつ分かりましたか?)。

本作は、ギデンズ監督から日本へのラブレターなのでは、そんな作品が日本で公開されないのは本当に切なかった、と葉山さん。監督の日本のポップカルチャーやアニメ、漫画に対する愛が詰まっている、と伊藤さん。
日本で台湾のコンテンツを見ることは少ないが、台湾だと日本のコンテンツはすぐ翻訳されて届く、台湾の方は思っている以上に日本のサブカルに詳しいのでは、と小島さん。
かつてテレビドラマでもマンガを実写化した作品が人気を博した状況からも、本作が台湾でヒットした理由も納得のものでした。
そして、動物愛にあふれたエンドロール。本作には原作の小説がありますが、そこではアルーのような犬は登場していないようです。これは、ギデンズ監督がもともと犬が好きで、自身も飼っていたアルーという名前の犬(劇中と同じ!)が病気で亡くなってしまい、それが脚本を書くきっかけとのこと。監督も「この映画でもう一度アルーに会いたい」とおっしゃっており、監督自身も一番思い入れがある作品が本作だそうです。
また、本作をなんとか多くの人に見てもらえないだろうか、と悩んでいる時に、思いがけないきっかけでオファーをした山崎貴監督とのやりとりと、その時のトークの様子もお話していただきました。
(このトークの様子は、こちらで一部公開されています)
この時、当初はギデンズ監督と山崎監督のオンライン対談予定だったのが、山崎監督と登壇すると知ったシャオルン役のクー・チェンドンも自らの希望で急遽登壇することになったそうです。あまり台湾でもトークイベントに登壇することのないクー・チェンドンが、葬送のフリーレンのTシャツを着用しての参加になり配給のお二人も嬉しい驚きだったと思います。
先にも話が出て、クー・チェンドンが主演、山崎貴監督が大好きだと豪語される『あの頃、君を追いかけた』は、今、日本で見る方法がありません(※レンタルビデオ店でもしかするとレンタルが可能なところもあるかもしれないです)。こちらの再上映の権利はもちろん、今後も上映される台湾映画がより多く日本の劇場でも見れる環境になったら台湾映画ファンのひとりとして嬉しく思います。
ここでトークの時間はタイムアップ..! 短い時間でしたが、映画を見た後の興奮をぎゅっと閉じ込めたアツいトークを繰り広げていただきました。
また、プログラム終了後もロビーで鑑賞後のお客様と楽しくお話をされていた3人でした。
本企画のトークを3人にお願いできたこと、本当に嬉しく思います。
台湾映画も、たくさんのジャンルの作品があり、日本でもわずかながらですが幅広いジャンルの映画が上映されています。今回、『赤い糸 輪廻のひみつ』で初めて台湾映画を見た観客の方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ここからめくるめく台湾映画の世界に触れてみていただけたら嬉しいです。
あらためて、伊藤さん、葉山さん、小島さん、ご登壇まことにありがとうございました!

構成・文:天貝みずき 写真:神山靖弘