『リンダはチキンがたべたい!』トーク・レポート 39th D Program

登壇者
安藤サクラ[俳優](オンライン)
聞き手:森直人[映画評論家]
進行:天貝みずき(水戸映画祭スタッフ)
日々、たくさんの新作映画が公開される中で、限られた劇場で上映できる作品はほんのわずか。場合によっては、近場の劇場で上映される機会がないということも少なくありません。
フランスのアニメーション映画である本作も、水戸エリアでは今回が初上映となりました。都心部でも字幕版、レイトショーが多かったのですが、大人と子どもが一緒に楽しめる作品ということで、お子様にも楽しんでいただけるよう、吹替版での上映としました。
上映後のトークには、作品の魅力をより知っていただくため、映画評論家の森直人さんに進行を依頼。吹替版で声優を務めた安藤サクラさんにもオンラインでトークに参加いただくことが叶い、水戸映画祭でも初のオンライントークの試みとなりました。
※トークの模様から抜粋してお届けします。(以下、敬称略)

安藤さんをお迎えする前後で、森さんと本作のポイントについて次のようなトピックでお話をしました。
- ラフスケッチ、ベタ塗りの作画で、色が乱舞するような本作の世界観と2Dアニメーションの可能性。
- 演技をしながらライブ録音をしていき、その素材を元にアニメーションを作る、という「絵に音を合わせる」ではなく「音に絵を合わせる」独特な制作方法。
- 父親が移民であることが、パプリカチキンという料理を通して示唆される移民映画であること。
- フランスでもパリではなく、パリ郊外の団地に住む移民家族を描くバンリュー(フランス語で郊外を表す)映画であること。
- アニメーションで本格的なバンリュー映画は稀有、社会的な側面も色濃くでていることも見所であること。
2Dアニメーションの可能性については、最近の潮流としていくつか他の作品もご紹介いただきました。
独特なスタイルで制作されたフランス語版ですが、吹替版ではさらに「音に絵を合わせ」た絵に吹き替えを合わせていくという、不思議な体験だったのではないかと推察します。

そして、ここでいよいよポレット役を演じられた安藤さんをお呼びして、お話を伺いました。暗い劇場内だったので、屋外からお話してくださった安藤さんの背景のコントラストで会場の雰囲気も明るくなりました。
上映時の公式な宣伝活動はなかったものの、安藤さん個人で地道な宣伝活動をしていたそう。本作については、安藤さん自身にエピソードがたくさんあり、それを話したかった!と聞いて、今回お声がけできて本当によかったと思いました。
日本語でも吹替版を作りたいというプロデューサーの強いパッションがあり、限られた予算とスケジュールの中、吹き替えが行われたとのこと。リアルな息遣いが聞こえる独特な作品に音を当てるということに対して難しさを感じられながらも、限られたスペースや時間で、少しでも元の録音環境での音に近づけたらと、少しでもできることがあれば現場で相談しながらの作業だったそうです。アニメと実写では発声なども変わることがあるけれど、本作ではできる限り実写に近い発声をするようにしたとのことでした。
歌うパートついても、歌い上げるよりも原語の詩を読むような、脱力した感じに近づけたいと、脱力方法を工夫されたそうで、元々の録音の様子もそうですが、吹替版のメイキングも見てみたかったです。
本作との縁ということで、安藤さんのお子さんと、お子さんのお友達ご家族、ご友人とみんなで映画を観に行った時の話をしてくださいました。
劇場での試写に参加することができなかったため、そこで初めて自身の吹替版を観たそうです。
たまたま、その少し前に、馬場と併設されたニワトリ小屋に行く機会があり、そこで安藤さんは馬場に逃げた鶏をポレットのように追いかけて捕まえたという偶然の一致が。
映画をみんなで観た後は、「パプリカチキンを作ってみんなで食べる会」を開催。馬場での出来事や映画を経ての、鶏を一羽まるまる使って作ったパプリカチキンに対してのお子さんの言動で、映画を自分のこととして感じながら、大切なことをキャッチして日常の時間と結びつけることができるんだな、という体験をされたという素敵なエピソードでした。
トーク終盤では、子どもに観てほしい気持ちが強くあって吹替版を作ったはずの本作の上映が、大人が見る時間帯に集中してしまったことが悔しい、と、ご自身が馴染みのある映画館と直接交渉したというお話もしてくださいました。また、お姉さんである桃子さんが代表を務める映画館(高知県「キネマМ」)でも吹替版を探していたところ、実は妹が吹替をやっていたというミラクルなやりとりのお話も飛び出しました。
最後に、ポレットの人物像が、娘がいて、姉がいる、という安藤さんと似ていることから、共感するところはあるかと聞かれると、「全然ない!」とキッパリ。
フランスに行ったことのある経験から、日本とフランスの違いについても感じたことをお話してくださいました。
プログラム終了後は、予想以上にパンフレットをお買い求めいただく方が多く、会場販売分は完売御礼。
前日のプログラムで登壇された根矢涼香さんも本プログラムを鑑賞されており、素敵な感想をいただくことができました。
今後も、小さな公開規模ではありながら素敵な作品たちを、水戸の映画好きの方々と共有し、作品について深く知ることができる場を作っていきたいです。
短い時間ではありましたが、本作について、森さんによる作品の深掘りと、作品に関わった安藤さんのお話を聞ける貴重な機会でたくさんお話が聞けたこと、プログラム企画者として大変嬉しく思います。
ご来場いただいた皆様にも良い映画体験になっていれば幸いです。
安藤さん、森さん、素敵なトークをありがとうございました!
構成・文:天貝みずき 写真:神山靖弘