『MADE IN YAMATO』トーク・レポート|第37回 Eプログラム

第37回水戸映画祭 MADE IN YAMATO 冨永昌敬監督 宮崎大祐監督

登壇者宮崎大祐監督 冨永昌敬監督

私的な話からで恐縮ですが、子どもの頃に読んだ星新一のショートショート、大人になってハマったガルシア・マルケス。多くの作家が書いている短編小説集は、どの短編からでも読める気軽さもありつつ、異世界を覗くような、短くとも深い余韻を残す秀逸な作品も多いですね。2022年、米国アカデミー賞ノミネートで大きな話題となった、濱口竜介監督作品『ドライブ・マイ・カー』(2021)は、村上春樹氏の短編集『女のいない男たち』のなかの3つの短編『ドライブ・マイ・カー』『シェエラザード』『木野』をもとに脚本が編まれていることは、ご存知の方も多いと思います。

さて、第37回水戸映画祭のトリを飾ったのは『MADE IN YAMATO』。神奈川県大和市を舞台に、5人の監督が紡いだ短編映画集です。

🎬『あの日、この日、その日』山本英監督(『小さな声で囁いて』(2019))
🎬『四つ目の眼』冨永昌敬監督(『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018)、『南瓜とマヨネーズ』)2017)、『ローリング』(2015))
🎬『まき絵の冒険』竹内里紗監督(『みちていく』(2014))
🎬『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』宮崎大祐監督(『VIDEOPHOBIA』(2019)、『TOURISM』(2018)、『大和(カリフォルニア)』(2016))
🎬『三月の光』清原惟監督(『わたしたちの家』(2018))
(上映順)

30歳前後の若手から中堅まで、いま活躍している監督たちの、同じ市内で撮られたとは思えないような五者五様の短編映画を、1本で楽しめる。「地方発・地方制作の映画」への共感と、現在休止中の「水戸短編映像祭」の雰囲気も少し感じていただけるようなプログラムができればと企画いたしました。

ゲストにお越し頂いた、冨永昌敬監督は、『VICUNAS(ビクーニャ)』(2002)で第6回水戸短編映像祭コンペティション部門グランプリ受賞後、映画界の第一線で活躍されています。『四つ目の眼』は、大和駅前にある「喫茶フロリダ」を舞台に撮られた作品。登場人物は3人、はたして「四つ目の眼」とは? サスペンス要素あり、メタ要素あり、どことなく日本ですらないような異国感もあり、会話もテンポよくぐいぐい引き込まれる凝縮された13分。これぞ短編の真骨頂、流石!です。

宮崎大祐監督の『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』は、『TOURISM』にも通じるようなガーリー・ムービーの表層を纏いつつも、深淵が垣間見えてしまったかも? なところまで行き着いてしまう、やはり只物ではない1本。いつか『MADE IN MITO』が出来たらいいなという妄想もつい膨らんでしまいます。

それではゲストお二人のトークの模様からお届けします。

第37回水戸映画祭 MADE IN YAMATO 冨永昌敬監督 宮崎大祐監督

※上映後トークの模様から一部抜粋してお届けします。(以下、敬称略)

宮崎大祐監督(以下、宮崎):『MADE IN YAMATO』の企画と、4作品目の『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』監督をしました宮崎大祐と申します。水戸映画祭では、一昨年、第35回のときに『VIDEOPHOBIA』を先行上映していますが、今日は水戸芸術館の劇場ではじめて自分の作品を上映して頂いて嬉しく思います。

第37回水戸映画祭 MADE IN YAMATO 宮崎大祐監督

冨永昌敬監督(以下、冨永):2作品目『四つ目の眼』監督の冨永昌敬です。水戸は2002年の水戸短編映像祭コンペティション部門でグランプリを頂いてから、その後の作品も上映しているので、なかにはずっと観てくださっているかたもいるのかなと思います。今日はよろしくお願いします。まずはこの作品の成り立ちを簡単に。

第37回水戸映画祭 MADE IN YAMATO 冨永昌敬監督

宮崎:はい、ぼくは神奈川県大和市に住んでいるのですが、大和市では毎年、映画祭(YAMATO FILM FESTIVAL)と子ども映画教室を開催していました。ところがコロナ禍で開催ができなくなって、大和市からその予算で何か面白いことができないか、という話を頂いたことがスタートです。

冨永:僕以外の3人、山本英監督、竹内里紗監督、清原惟監督はもともと「子ども映画教室」を担当していたんですよね。僕は大和市の隣の町田市に住んでいて、宮崎くんともよく会っていて、声をかけてもらいました。お題は「大和市の中で撮る」という事くらいで、自由でしたね。

宮崎:そこは大和市も寛大で、撮影場所の制約や指定もなく、5人の監督に撮ってもえるだけでもありがたいので自由に撮ってくださいと。

冨永:映画祭用の予算を5等分して制作費に充てるので、だいたい1本あたり10〜15分くらいの作品になるかな?と思ったらみんな結構長いの作ってきたね。

宮崎:打合せの段階では、上映時間が60分以上になれば劇場公開もできるので、みなさん12分以上目指しましょう、と話していたんですが、結果120分の作品になりました。

冨永:ぼくは予算的にも撮影は1日だったのだけど、清原さんなんて5日くらい撮っていたらしいね。

宮崎:各作品の編集が上がってきて、竹内さんが「わたし30何分になったんですけど……」と。冗談でしょ、と思ったら「わたしも」「わたしも」って、30分以上が3人(笑)

冨永:『まき絵の冒険』なんて、主人公のまき絵さんが大和市のあちこちを随分歩き回って内容的には40分あってもいいくらいだし、『三月の光』は徒歩→自転車→バイク→最後は新幹線まで出てくる。それぞれ僕とは全然取り組み方が違うな、と。僕の作品は、13分で、ほぼ喫茶店の中で完結してるんです。

宮崎:「喫茶フロリダ」ですね。

冨永:水戸短編映像祭で上映してもらった『VICUNAS(ビクーニャ)』(2002年・第6回水戸短編映像祭コンペティション部門グランプリ作品)にも出演している福津健創くん、『亀虫』(2003年)に主演している尾本貴史くんという長い付き合いの役者2人と、2,3年前に俳優ワークショップで知り合った円井わんさんという組み合わせで。早朝から夜9時10時くらいまで、喫茶店の中で撮っていた。他の人もそんな感じかとおもったら……(笑)

宮崎:僕もですが、ある程度大人になると、この予算や条件だと撮影1〜2日で、ロケ場所もせいぜい1〜2ヶ所かな、という冷静な良識的判断をしますよね。ところが若者3人は創作意欲が溢れてしまって、もう行くところまで行くという選択をしたようです(笑)

冨永:宮崎さんは、大和在住で、これまで大和を舞台に何本も映画を撮っていて、一昨年に水戸映画祭でも上映した『VIDEOPHOBIA』は大阪で、その前の『TOURISM』はシンガポールで、知らない土地に飛び込んで作る、何が撮れるかわからない超ストロング・スタイルと言えるよね。その後に、あらためて地元で撮るときに新鮮な気持ちを保てるのかなと思いきや、恐竜の時代と遥か遠い未来、地球人以外もいそうな未来、何億年もの時間を導入してくるという、時空を超えてきたかんじでしたね。

宮崎:ありがとうございます! 大和在住の僕だからこそ知っている場所を撮るというバランス的なことも考えたのですが違うかなと。コロナ禍で考える時間がたくさんあって、人類とか地球の歴史についてずっと考えている時期があって。そう言ってもらえると凄く嬉しいです。

冨永:そう、しかもね、‘ウイルス’というキーワード。ウイルスって地球の歴史を大きく変えてきた存在ですよね。時代のキーワードが全部入ってる。

宮崎:新型コロナウイルスは40KBの情報量しかないらしくて。人類がA4サイズ数枚の情報に脅かされる危機って何なんだろう。人間は、まだ何にも分かってないって思い知りますね。

冨永:前半はタイムカプセルを埋める話、後半ラスト近くで柳英里紗さん演じる“エリちゃん”が、恐竜レストランで急に右目と左目の視差の話をしますよね。一度そのことを意識してしまうと、そこから別の世界に意識が行ってしまってもう戻れなくなる。

宮崎:新しい現実に遭遇しちゃう。それにしても、僕以外の監督の作品を観て、まだこんな切り口があるのかと。これまで、知らない土地で撮ることで、新たなものの見方を身に付けたいという気持ちはあったけど、今回、右目左目の視差という話から、場所だけでもなく人の数だけものの見方が違うんだなと。大和市で撮ってこれだけヴァリエーションが生まれて面白い作品が撮れるなら、本当に面白い土地・場所で撮ったらどれだけ面白くなるんだろう……と妄想します。

第37回水戸映画祭 MADE IN YAMATO 冨永昌敬監督 宮崎大祐監督

冨永:ぼくは今回、ほぼ喫茶店の中だけで撮影したけれども、この小さい場所でどういうふうに撮ると異世界に行けるのか、となった時に、単純に‘誰かの妄想’という形をとったのね。以前20年くらい喫茶店で働いていた経験があって、お客さんのことはよく観察していたんです。いまもよく喫茶店で作品の構想を練ったりします。

宮崎:今回の冨永さんの短編を拝見して、今までと同じように感じたところと、今までと違うと感じたところがあって。同じなのは景色にしろ物語にしろ、洗練された‘ネタ化’の巧みさ。違うというのは、「フロリダ」なのに何故かアジア映画っぽい。熱帯雨林感があるというか。

冨永:お店に貼ってあるポスターなんじゃないですか? あと、あれはね、1日で撮るので夜暗くなってきて、あの店は家庭用の丸い蛍光灯の照明が10コくらいだけなんですよ。どうも違うなと。それでもともとの照明は消して、俳優が歩くところなど3ヶ所にスマホサイズのLEDを置いたんです。暗い店内に駅前のネオンが映り込んだので、その照明とネオンの効果かもしれないですね。

宮崎:それで過剰にフィクショナルというか演出的な表現に感じたのかな。

冨永:それ言ったらシンガポールで撮った『TOURISM』もモロッコみたいな感じしたよ。

宮崎:それはシンガポールのムスリムの人が住むエリアで後半撮ったので、ムスリム=モロッコのイメージが重なるのかも。

冨永:今回の『エリちゃん〜』は『TOURISM』から繋がるような感じあるね。

宮崎:僕は暗い映画と明るい映画を交互に撮っていて、『TOURISM』は明るくて『VIDEOPHOBIA』はちょっと暗くて『エリちゃん〜』はまた明るめですね。

冨永:宮崎くんの映画は、若い女性二人組の設定が結構あるけど、何かあるんでしょうか。『VIDEOPHOBIA』のスピンオフもそうだよね。

宮崎:僕も最近気づいたのですが、『大和(カリフォルニア)』もそうで。そこになにか意味はあるのか、ってことを解明するプロセスを撮る映画を近々撮りたいです。

冨永:(笑)

宮崎:仮説として、僕の心の中に双子の女性が住んでいる、というのがありまして。次の作品で解明、勝負に出ようかと。

冨永:先月撮ってたのは?

宮崎:そちらは男性が主人公で。東京から田舎に行って、帰れなくなるんですけれど、帰れないということを納得するまでの、‘ミュージカル’です。冨永さんも来月撮影とか。

冨永:ぼくも来月、4年ぶりくらいに長編の撮影があります。7〜8年前に水戸で『ローリング 』を撮影して、そのときはじめて特定の街で映画を作るということをしたのだけど、今回の大和もそうだし、また固有の土地に向き合うという取り組みになります。

宮崎:公開は来年ですか?

冨永:来年の予定です。

宮崎:今日ここに来ていない3人の監督もそれぞれ映画を撮っていまして、来年は『MADE IN YAMATO』の5人の其々の作品が公開予定です。水戸の皆さんにもお届けできますように。いつか『MADE IN MITO』も作れたらいいなと思いますので、これからもよろしくお願いします。

冨永・宮崎:今日は遅い時間までありがとうございました。

第37回水戸映画祭 MADE IN YAMATO 冨永昌敬監督 宮崎大祐監督

当日プログラム詳細

(写真:神山 靖弘 構成・文:藤 美奈子)


2022年12月30日 | Posted in Talk Report | | Comments Closed