『吉開菜央特集:Dancing Films』トーク・レポート|第36回 Bプログラム
上映作品:『風にのるはなし』『梨君たまこと牙のゆくえ』『ほったまるびより』『Grand Bouquet』
登壇者
吉開菜央[映画監督]
住吉智恵[アートプロデューサー、ライター]
聞き手を務めていただいた住吉さんは、吉開監督へのロングインタビューをされています。
国際交流基金 Performing Arts Network Japan
※トークの模様から一部抜粋してお届けします。(以下、敬称略)
住吉 吉開さんの作品は以前に拝見していますが、時間が経過し社会の状況が大きく変わってきているなか、今日水戸で観てまた違った感想がふつふつと湧き上がってきました。音もすごくよかったですね。梨をかじるシーン(『梨君たまこと牙のゆくえ』)なんて、まるで劇場が口の中になったかのような瑞々しさ。感覚宇宙が広がっているような没入感がありました。吉開さんは音へのこだわりはもとからあったのでしょうか?
吉開 水戸(の劇場の音)すごいですね。この劇場は上にも空間がある(ACM劇場は3階席まである)からか、音量を上げても不快にならない気がします。私自身ダンサーでもあり、「からだで会話する」身体性からスタートしていますが、『ほったまるびより』でのアフレコを経験してからは、音で映像の世界も見え方が変わるというのはより意識するようになりました。
今回、特にカンヌ出品作の『Grand Bouquet』は音響にもこだわりのある作品ということで、水戸芸術館舞台技術係、茨城映画センター協力のもと、吉開監督にも試写立合いしていただき上映環境を作りました。お客様アンケートで音響に触れる感想も多くいただきました。
住吉 『ほったまるびより』とても好きな作品です。今日は音のせいか『サスペリア』(2018)や『ミッドサマー』(2019)のような、ある種の宗教儀式の踊り、イニシエーション、信心というものをも想起しました。
吉開 『ほったまるびより』は「たんぱく質を愛する」映画にしようというところから始まって、儀式というより祝祭、カーニバルのような、ダンサーと一緒に楽しむ感覚で作っています。観る方にも楽しんでもらいたいので私なりのエンターテイメントも盛り込んであります。
住吉 吉開さんは、個人的な感覚や体験、情動を、過小評価しないでそこから世界を広げて作品にされてこられた現代作家と思っています。いまちょうど水戸芸術館現代美術ギャラリーで『ピピロッティ・リスト』展(会期は2021年10月で終了)開催していますね。彼女とは20年来の旧知の仲ですが、共通するものを感じます。観ているとまるでマッサージされているような気持ちになります。
吉開 『ピピロッティ・リスト』展、素晴らしかったです! 映画館とも違って、カーペットやソファ、ベッドなどローアングルから作品をみたり、そこに前のひとの体温が残っていたりするのも面白いですし。ギャラリーの閉じた空間のはずなのに開放的な世界に感じました。まさにマッサージだし、整体とか鍼治療のよう。
お客様にもピピロッティ・リスト展からこちらの上映にお越しの方もいらしたようです。
住吉 これまでの個人的体験や感覚から、社会との関わり・問題意識へと、吉開さんの作品製作はまた新しい次元にきているように思います。最新作の長編が公開されますね。
吉開 『Grand Bouquet』くらいから特に、自分の問題意識と世の中で起こっていることがリンクしていくような感覚があります。最新作の『Shari』は写真家の石川直樹さんの発案・撮影で、北海道 知床半島の斜里町で撮った作品です。はじめは短編のつもりが、私の思い描くファンタジックな世界と現実世界がどんどん膨らんで繋がって、はじめての長編になりました。
『Shari』の製作にまつわる興味深いお話もいろいろとお話いただきました。
吉開菜央監督 初長編映画『Shari』は10/23より全国公開中です!!
『Shari』公式サイト
自然が近い斜里町とその土地に生きる人びと、ヒトとケモノの間の存在「赤いやつ」。
『Shari』も本当に素晴らしい作品です。いつか水戸でも紹介できますように!
撮影:山崎宏之