第36回水戸映画祭 Aプログラム『あのこは貴族』


登壇者

岨手由貴子[映画監督]
岨手監督は、2005年「第6回水戸短編映像祭」コンペティション部門に入選されています。今年話題となった最新作の上映後トークにご登壇いただきました。

杉山ひこひこ[俳優]
杉山ひこひこさんは、岨手監督が入賞した当時、コンペティション部門の司会を務められており、水戸発映画『ローリング』(2015)に出演など、数々ご縁があって聞き手を務めていただきました。

鈴木涼美[文筆家]
鈴木涼美さんは、はじめて水戸映画祭にお越しいただきました。文筆家として多くの著書を出版されており、最近では上野千鶴子さんとの共著『往復書簡 限界から始まる』(幻冬舎)が話題に。『あのこは貴族』のレビュー

第36回水戸映画祭 あのこは貴族 トークイベント 登壇ゲスト 岨手由貴子監督 鈴木涼美さん 杉山ひこひこさん

※トークの模様から一部抜粋してお届けします。(以下、敬称略)

鈴木 『あのこは貴族』は試写でも映画館でも拝見し、レビューも書かせていただきました。とても好きな作品です。同年代の女性で、才能ある映画監督のすばらしい作品が観られて嬉しいです。
海外から均質的に見られがちな東京の、でも確実に存在する微妙な階層の差異が描かれていました。

岨手 本当に家柄の良いお金持ちは気軽にメディアには出てこないですし、SNSでも容易にアクセスできない。どうにか伝手を辿って実際に取材させてもらうまでが難しかったです。

第36回水戸映画祭 あのこは貴族 トークイベント 登壇ゲスト 岨手由貴子監督

杉山 本当のお金持ちは所作に育ちが出ますね。例えばレストランでスプーンを落としたとき、華子はさっと手を挙げてボーイに合図するだけ。ありがとう、も言わない。それはマナーで、彼女には当たり前のこと。そういう細かなところまで丹念に描かれている。
華子は、移動手段がタクシーだったのが、後半になって歩いて帰るシーンが出てくる。華子の変化を感じさせるとてもいいシーンでした。

第36回水戸映画祭 あのこは貴族 トークイベント 登壇ゲスト 杉山ひこひこさん

タクシーを降りてミキと自転車に二人乗りする、歩道の反対側の見知らぬ人と手を振り合う、雨の中の人込みで傘をさして歩く、ひとつひとつはささやかな華子の行動が、確かな一歩と感じられるシーンがいくつもありました。

鈴木 これまで、日本に生まれただけでラッキーと思われていたのが今はだいぶ変わってきて、「上級国民」という言葉が生まれたりしたように「格差がある」ということが多くの人に「発見」されてしまった。ただ生まれ育ちは自分では選択できないけれど、東京ではかなり混じり合っていて、階層を飛び越えることもできる。

第36回水戸映画祭 あのこは貴族 トークイベント 登壇ゲスト 鈴木涼美さん

岨手 もっと下に行く可能性もありますよね。安泰はないというか。けれど、鈴木さんがレビューでも書いてくださったように生まれた場所は変えられないけれど、それに甘んじずに自分ができる選択をしていくことはできる。そのスタートラインに立つ、というところでこの物語は終わるんです。

杉山 自分を限定せず、あらゆる方法や可能性、選択の余地があるということを感じられる映画でしたね。

鈴木 様々な人がこの映画を観て自分の物語を紡ぐことが出来る。親や男性や、他人に決められた役割から、自分の選択により脱皮する。同じ女性として頼もしいです。

シスターフッドムービーであるだけでなく、社会に漂う気配も細やかに写し取り、綿密に練られているのに、それを感じさせない軽やかさもある。渡邊琢磨さんの音楽や登場人物を体現している衣裳のリアルさなども素晴らしく、様々な切り口で語ることのできる、今、観てほしい作品のひとつです。

『あのこは貴族』Blu-ray&DVDは2021年10月27日より発売中! 『あのこは貴族』公式サイト

当日プログラム詳細

撮影:山崎宏之


2021年12月12日 | Posted in Talk Report | | Comments Closed 

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