日本映画が好き 2017【平成29年度優秀映画鑑賞推進事業】

男女の心のあやや生きることのはかなさを、冷徹な視線で描写し、確固たる作風を築いた成瀬巳喜男監督の戦後代表作を紹介いたします。

9月16日(土)10:30~『めし』料金:500円

日本映画が好き2017 成瀬巳喜男監督作品『めし』 第32回水戸映画祭

1951年/東宝/白黒/スタンダード/97分
監督:成瀬巳喜男
出演:上原謙、原節子、島崎雪子

黒澤、溝口、小津に続く〈日本の四番目の巨匠〉として、今や世界中の映画批評家から熱い視線を受けるに至った成瀬巳喜男監督の代表作に数えられる作品。監督を〈世界のナルセ〉の地位に押し上げるに功のあったアメリカの映画批評家オーディ・ボックなどは、これを成瀬作品のなかでもっとも好きな作品と語っている。結婚生活も5年が過ぎ、倦怠期を迎え始めた夫婦。そこに突然、夫の姪が転がり込んできたことから、単調だった二人の暮らしに思いもよらぬ波乱が生じはじめる。美男美女の主演二人が、本作ではともに中年にさしかかり、平凡で退屈な男と所帯やつれした女になったさまを、見事に好演している。原作は林芙美子による未完の新聞連載小説。その結末を含め、脚色を委ねられた田中澄江と井手俊郎の良質な叙情と煥発する才気とが美しく調和し、繊細極まりない成瀬の演出と玉井正夫の撮影のなかに開花している。第25回「キネマ旬報」ベストテン第2位。

9月16日(土)13:10~『流れる』 料金:500円

日本映画が好き2017 成瀬巳喜男監督作品『流れる』 第32回水戸映画祭

1956年/東宝/白黒/スタンダード/116分
監督:成瀬巳喜男
出演:田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子

隅田川畔の花柳界・柳橋を舞台に、置屋の女中として雇われた女の眼を通して、零落する花街の姿を描いた幸田文の同名小説を、田中澄江、井出俊郎による脚色により成瀬巳喜男が映画化。前年『浮雲』にてベストワン監督となった成瀬が、当代を彩る女優陣の火花散る競演を得て、芸者として生きるさだめを抱えた女たちのけなげさやエゴを存分に引き出し、代表作の一つとした。置屋の女将を務めながら男への未練を断ち切れない山田五十鈴演じるつた奴に、彼女を芸者として鍛え上げた地元有力者の女将お浜が絡む場面は、原作にはあまり描かれていないが、成瀬に請われ18年ぶりの銀幕復帰となった栗島すみ子による、やさしさと冷徹さを兼ね備えた存在感により、スリリングな緊張感をもたらしている。また、つや奴の娘・勝代を演じた高峰秀子、老齢にかかった芸者のアクを見せた杉村春子とともに、映画全体の距離感を作り出した女中役・梨花(お春)の田中絹代の演技も見逃せない。女優たちの艶とケレン味が、座敷の場面を一つも描かずして、セットと実景を見事に結合させた空間構成のなかから引き出され、現実の変化とともに確実に失われつつある時代への郷愁を、艶やかなモノクロームの画面に見事に定着させている。第30回「キネマ旬報」ベストテン第8位。

木下グループ

2017年9月16日 第32回水戸映画祭 2017年9月17日 第32回水戸映画祭2017年9月18日 第32回水戸映画祭DateBtn-download